今から約35年前の1983年に、アメリカ連邦政府特別委員会は一つの報告書を時のレーガン大統領に提出した。『危機に立つ国家』と題されたこの報告書は、「我々の国家は危機に瀕している」と書き出し、「アメリカはかつて通商、産業、科学、技術革新の各分野で優位を誇っていたが、今は世界中の競争相手にその地位が脅かされている」と述べている。それはアメリカの基幹産業である鉄鋼や自動車の分野で、日本やドイツに追い越されようとしていた時代でもあった。

報告書は「危機」の原因や背景は複数あるとしたが、それまでのアメリカの繁栄、安全保障、社会規範を支えた最たるものが「教育であった」とし、当時の「危機」は過去数十年の「凡庸な教育」によって引き起こされたものだと指摘した。また、それによって「一世代前には考えられないようなことが起こり始めている」とし、その結果「国民の将来が脅かされている」と述べている。更には、これが非友好的な外国勢力によって為されたものであるならば「戦闘行為に相当する」が、残念ながら「自らの手で、これと同じ侵略行為を許してきている」として、「我々は思慮に欠けた一方的な教育の武装解除をしてきているのだ」と結論付けている。

この委員会は、経済を含めたアメリカの衰退、即ち「危機」の原因を教育に求め、「凡庸な教育」の為に国力が衰退し危機を招いたとして、「武装解除」された教育の「再武装」が必要であるとの認識を示し大統領に進言したのであるが、この報告書の「アメリカ」という部分を「日本」に置き換えれば、今日の我が国の状況にそのまま当てはまるような内容である。この報告書に沿って、レーガン大統領は抜本的な教育改革を行うことでアメリカの経済と国力の回復を果たし、それが世界で唯一の超大国の地位確立に繋がっていった。

戦後レジームからの脱却を目指す安倍政権の下でも、「教育の再生」は「国家再生」のための重要課題と位置づけられている。その教育の目指すところは、国民個々の能力を開花させて、学力・体力・精神力を養い、国民が充実した人生を送ることができるようにすると同時に、国民としての規範意識や矜持を涵養することにあろう。

そしてその為の鍵も、また未来を切り拓く力の源泉も歴史にある。

「一身独立して一国独立す」は福沢諭吉の教えであるが、「勁(つよ)き日本」を創る途は、国民に自らを育んできた郷土や国の歴史を教え、自信と意欲を回復させて、自らの「可能性」を信じさせることから始まると思うのである。